2005.11.30.UP
       
ストックホルムには、エステルマルムのサルハール、セーデルマルムのサルハール、ピョートリエット広場…と、市内3カ所に、マーケットがあります。サルハール(Saluhall)とは、スウェーデン語で屋内市場のことだそうで、屋根付きだったり、ショッピングモールの地下(デパ地下とはちょっと雰囲気がちがいますが)にあり、様々な食材店がブースを設けて商っています。
 
北欧といえば、ニシンやサケが真っ先に頭に浮かぶ方も多いでしょうが、まずはフルーツスタンドからご紹介しましょう。さて。エステルマルムの広場で商うフルーツスタンドで、ちょっと見慣れない果物を発見。
これはKrusbar/クルーズベア(スウェーデン語読み)=グースベリー。この色だとマスカットの味を想像してしまうけれど、これは皮の渋み、種の食感がしっかりあって、ちょっとワイルド(?)な味です。葡萄の皮は果肉にはない栄養分を含んでいるし、トマトも種のところが一番栄養豊富といいますから、なんだか栄養価が高そうです。
 
 
  本レポート文中のスウェーデン語(ウムラウト)は、全て英語式の表記に代えて表記している為、スウェーデン語が正確に表せていないところが多々ありますこと、ご了承ください。
 
Hjorton(=Cloudberry,ヨーロトン)、Lingon(=Cowberry,コケモモ)、Akerbar(=ラズベリー)、Blaabar(=Blueberry)…原産のベリーの種類も豊富にあり、美味しいジャムになって商品棚にならびます。※barは、berryの意。ヨートロンは、黄色いラズベリーのようなベリーで、スウェーデンのネイティブフルーツだそうです。ほのかな甘みとちょっとエキゾチックな独特の風味があります。ジャム(プリザーブ)にしたヨートロンを、暖めて、カマンベールチーズや、バニラアイスにかけて食べるのがスウェーデン風の食し方だそうです。また、コケモモのジャムは、ミートボールに添えて一緒に食したりするとか。このような食べ方は、何となくもったいない気がしてしまいますが、アメリカの感謝祭の定番メニュー、ローストターキーでも、クランベリーソースを添えて食べますし、ビタミン&ミネラル豊富なベリーをお肉に合わせるのは、食い合わせとしては理にかなっているのかもしれません。
 
これは、Physalis/フィサリス=食用ほおずき。日本では見かけませんが、ヨーロッパでは各地にあります。(ココで売っていたのはコロンビア産(?)のようでしたが。)
以前フランスでコーヒーに添えられたプチフールで、フィサリスを飴でコーティングしたものを出されたことがあります。縁日の出店のリンゴ飴や苺飴のような感じで、飴のカリッとした食感と中からプチッと出てくるジューシーさが美味しかった(!)。ハート型の皮を広げて丸い実を出し、口に運ぶこのプロセスがまた楽しいのです。
 
何と言っても美味しかったのは、ラズベリーとストロベリーの混交品種。外観はちょっとストロベリーに近い感じですが、割ってみると中の空洞が大きく、味はちょっとラズベリー特有の酸味があって、ジューシー。なんともいえない甘酸っぱさです。
 
市場で必ずチェックするもののひとつが、スパイスです。その国にある食材や料理に合わせたブレンドスパイスが見つかったりするのが、なんとも面白いのです。ここ、スウェーデンにも…ありました(!)。
 
 
「JagarMix」(写真左端)。"Jagar"には、「狩猟の」という意味があるそうなので、これはおそらくシビエ(野禽獣の肉)料理に使うものではないかと思われます。マスタードシード、レッドペッパー、オニオン、キャラウェイ、タマネギ、パセリなどがブレンドされており、ラベル上にも"Kott"(鹿肉は"algkott",トナカイ肉は"renkott")の文字があります。また、メキシカン風、ハワイアン風、イタリアン風、タイ風(接尾語「〜sk」で「〜風の」の意となるそうです)など、数々の「なんとか風」、「なんとか料理」用ブレンドスパイスがあり、他の主都市と同様インターナショナルな現代スウェーデンの食卓が想像できます。
 
 
JAPANSK (日本風の) は…というと、こんなものを発見。お寿司はスウェーデンでも大変人気のある食べ物のようで、寿司レストランもあちこちにあります。サルハールの一角にも寿司屋さんがありましたが、サーモン10カンが乗っかった皿を見ると、寿司好きの私も思わず後ずさりしてしまいます…。外国ではとかく日本食=寿司と思われているのが悲しいですが、お寿司はそれだけ個性的な料理ということなのでしょうか。
 
お寿司の話になったので、スウェーデンのお魚のお話を。市場では、豊富な種類の魚が出回っていて、マリネや薫製などの魚の加工品も沢山売られています。ちょうど夏のこの時期は、カレイやヒラメなども沢山出回っていました。「左ヒラメに右カレイ」…とすると、この巨大なのはカレイ!?日本のお魚図鑑にあるものとは比較にならない大きさでしたが、小イワシは万国共通サイズ!??
スウェーデンで最も一般的に食べられている魚は、サーモン、タラ、ニシン等々だそうです。ニシンは、マリネソースに漬け込まれたものが日常的に食べられているそうです。
 
写真左は右から、カレー風味、マスタード味、ニンニク風味…シェリー風味等々、マリネソースはバラエティー豊か。
※注釈:ニシンを漬けてあるもののラベルには、Senaspssill","Matjessill","Vitlokssill”とあります。Sillはゴットランド以南でとれる一般的なニシンで、バルト海でとれたものはStrommingと別名で呼ばれています。
バルト海でとれたニシン、Strommingを発酵・貯蔵させた"Surstromming"という食べ物があるそうです。これは北部の人が食べるそうなのですが、想像するに、塩辛かカピ(海老を発酵させたもので、タイ料理に使われる他、類似のものでキムチ造りに使うものがあるし、魚醤なども発酵のプロセスを踏んだ食品)のようなものではないかと思います。かなり臭いらしいですが「日本人なら大抵の人が食べることができると思います」とストックホルム在住の日本人Mさん。味覚は慣れと訓練。納豆、塩辛等で鍛えた舌ならではということでしょうか。さすれば、熟成チーズで鍛えた舌を持つフランス人もイケるのでは??
小エビもよく食べられる魚介だそうで、北海で捕れた小エビをすぐに塩ゆでしたものが、冷凍で沢山出回っています。この日の夜行ったイタリアンレストランでは、「イカを切らしたので海老をつかいました」と、小エビが沢山入ったパスタを持ってきてくれましたが、あれはひょっとしたら冷凍食品だったかも…。ちょっとしょっぱかったなぁ。
一方、スウェーデンでは、あまりイカやタコ、ウニはあまり食べないとか。だんだん寿司ネタが減ってきました。(やはりストックホルムの寿司屋はあまり期待できないか??。)また、貝類はストックホルムではあまり無いそうなのですが、スウェーデンの西海岸(ヨーテボリあたり)では、ムール貝が食べられるとか。また、季節限定(秋〜冬)で、ロブスターやザリガニ(夏)もポピュラーだそうです。
 
 
ロブスターは、北方民族博物館にあった20世紀初頭の食器のモチーフにもなっていました。
 
食材から見ると、ここはやはりイタリアンか…!?ストックホルムでもイタリアンは大人気で、あちらこちらにイタリアンレストランがあります。世界で一番愛されている料理はイタリアンかも!?
ニシンのマリネを試食しては「このしろやままかりの美味しさには叶わないな」とつぶやき、寿司屋をのぞいては「ネタは日本のに限る!」、イタリアンも「やっぱり素材よね」などと、瀬戸内っ子としては、魚介になるとつい古里自慢したくなるのでアリマス。ひょんなところで、自分の中に眠っている郷土愛(?)が首をもたげていることに気づき、つらつらと思っては、ひとり苦笑してしまうのでした。
 
 
スウェーデンの人もその気持ちは同じなのか、[Severige=スウェーデン産]には並々ならぬこだわりがあるそうです。特に、チーズなどの乳製品や、豚肉は「スウェーデン産が一番!」おいしいといいます。森の豊かな土地柄ゆえ、ドングリなどを沢山食べた豚は脂肪分にもリノール酸がたっぷり。イベリコ豚に負けず劣らず良質で美味しいのだそうです。残念ながら今回の旅ではスウェーデン産の豚肉を口にする機会はありませんでした。市場巡りの旅なら、キッチン付きのオーヴェルジュあたりに泊まらねば。そして、1カ月は欲しい…。Vacationlagとでも呼びましょうか、ヨーロッパに来ると、こんなことをつい真剣に考えてしまいます。
帰国後、Mさんからのメールには、「(前略)娘を連れて、雨上がりの森へ茸狩りにいきました。(中略)茸探しに飽きると、そこら辺のブルーベリーを摘んでいます」…と…。『ロッタちゃんと赤い自転車』(スウェーデン映画・原作は『長くつ下のピッピ』で有名なのハストリッド・リンドグレーン)のピクニックシーンを思い浮かべ「ふぅぅぅ…」と、羨望のため息がでてしまいました。
でもでも、年の三分の二が冬の国であることを忘れてはイケナイ。
厳しい冬、そして昼の3時には日が沈んでしまう短い日照時間…。このような環境であるからこそ、屋内の暮らしを明るくするカラフルなデザインが生まれたとも言われます。北方民族博物館の民家にあった保存食のクリスピー・ライブレッド(家の柱に通して掛けてありました)、それからジャガイモの貯蔵庫…。現代の豊かな生活のイメージも、産業改革以後のことと思うと、感慨深いのでした。
食べ物の話はつきませんが、残りは写真グラフィティーに返させていただきます。
 
左から、アーティチョーク、ルバーブ、キャッサバイモ(コスタリカ産)。ルバーブはフキのような風貌だが、酸味があって、ジャムやパイなどに使われます。
キャッサバイモは、タピオカ(東南アジア)や、ポン・デ・ケージョ(南米)などの原料となるデンプン粉がとれるイモ。
 
 
これはビーツ(てんさいの一種のカブ)のスプラウツ。オランダ産でした。
右は、フェンネル。葉の部分はハーブとしてつかったり、ハーブティーにもなります(Spice&Herbの項参照)。株の部分はスープにすると美味しい!右はキノコ。
 
 
写真左:ブルゴグ:挽き割り麦。これも欧米諸国で愛されているアラブの食材です(Recipe:タブリサラダ参照)。
右は亜麻の実。クスクスや、バスマティ米、リゾット米(イタリアの米)など、穀類もいろいろ揃っている。
 
「Kott」ということは…鹿肉かトナカイ??でも付いている札の絵は牛です。周りを凝固した脂肪で覆ったコールドビーフ?(だと思うのですが…)
 
 
左:いろいろな生産地のチーズ。やっぱりSeverige(スウェーデン産)が一番人気。
シビエの加工品を売っているお店で…。写真の真ん中にあるのはRenktRenhjarta=トナカイの心臓の薫製。その他、鹿やトナカイの肉の薫製加工製品や、フォアグラ、キャビア等を取り扱っています。店頭にトナカイやクジャク、七面鳥の剥製が飾ってあったりと、ハンサムおじさんの上品な対応とは対照的に、なかなかワイルド。
写真右は、野鳥の卵たち。ダチョウや七面鳥の卵も!(いつもあるわけではないらしいですが。)
 
外国を訪れた際、その土地の物価感覚をつかむ為、私は必ず、スーパー等で、卵や牛乳の値段をチェックするようにしています。ちなみに、ストックホルムの下町セーデルマルムのスーパーでは、卵1ダース、19.90クローネ(300円ぐらい)。
うーん、やっぱり高い…?。でも、スウェーデンでは、最近ブロイラーではない卵が一般的になってきているらしい…。オーガニックブームをはじめ、食の安全意識が高まる昨今、世界の物価指数を卵で測るのは、もはや適当ではないかも。
 
 
日本のお店では、よくチーズ売り場等でクラッカーと一緒に置かれていたりするライブレッド・クリスプ。このおせんべいのようなカリカリパンでサンドウィッチを造って食べる人も…。サイズも穀類の種類もいろいろ。
市場やスーパーのハーブ売り場では、ハーブは全て、苗ごと売られていました。
 

左:ジャガイモのグラタンは、スウェーデンの郷土料理のひとつ。
中:魚屋では、魚の加工品を一緒に取り扱っているところが多く、魚や魚の卵の薫製やマリネが売られています。
右:アラブのお菓子、バクラワ。薄いパートフィロにナッツを挟んで何層にも重ね、シロップをかけた焼き菓子。ワタシの大好物!フィラデルフィアで暮らしていたころは、いつもギリシャ人街で買っていたのでギリシャのものかと思っていたけれど、これらは大都市ならたいてい見つける事が出来ます。ロンドンのハロッズにもいろいろな形のいろいろなナッツを使ったバカラワが売られています。

ストックホルムにも沢山の移民が暮らしているようです。その多くはとなりのフィンランドやシリアからの戦争難民、チリなどのラテン系政治難民等々。郊外に行けば、インド人街、アラブ人街があり、モスクも…。ドイツ系移民も多いようで、ガムラ・スタン(旧市街)にはドイツ人学校もあります。
そして、そんな社会を裏付けするように、市場をのぞけば、そうした移民達の食文化に溢れているのでありました。
旅する度に思う。おいしいものに垣根なし。

 
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